夢みる瞳 そこに映るのは光り輝く未来 暖かな生活


荒んだ瞳 そこに映るのは闇に沈む未来 寂しい生活




心のときめき 恋の予感 愛する人への愛のことば


脳の痛み 涙の予感 憎むべき人への哀のことば




愛する人との 愛し合う時間


憎むべき人との 恨み合いの時間







同じ人間なのにどうしてこうも違うの?

どうしても憎んでしまう僕を許してと少年は言った

しかし私は咎めなかった

それは道理にかなっていることだから

この世界に居る者は全て恨んでいる


世を

国を

人を



己を







―シアワセハ ボクニ オトズレテハクレナイノデショウカ?







彼が言ったその言葉を

尚更私は肯定することも

否定することもできなかった










MAID―メイド―













 高卒の俺の就職先はビルとは程遠いチンケな建物を"本拠地"としたこれまたチンケな会社。

それに迎え入れられる俺もまた"チンケ"な人間である。

まあだからと言って特に夢も野望も無かった俺にとっては別に何とも無いことで

苦痛など一切ない、むしろ俺にとってはそれが向いていたしベストだと思っていた。

むしろベスト。

俺にはお似合いの職場だったわけだ。



それがどういったことか、入社8年目にして会社が倒産。

チンケな会社にはお似合いの結末ではあるが俺にはとんでもない結末…いや俺にはまだ

結末なんて来ちゃいない。

若干26歳。

これからどうすればいいのかと上手く考えられるほどの脳は無くできることといえば

実家へ転がり込んでスネをかじる事くらい。

しかしチンケな俺を生み出した家もまた"チンケ"な家であるがためにそれも長く続かず。

結局俺は求人雑誌「困ったときにはお互いSUMMER」を手に取ったわけである。





「やっぱり…"メイド"しかねぇかぁ…」





高校卒業直前に渡された進路先だってそうだ、どれも"メイド"しかなくて結局俺はそれを避けて

なんとか見つけ出した小企業に滑り込みセーフしたのに。

結局は他の同級生達と同じ道を歩むことになってしまった。



「はあ」とため息をついていると本当に幸せが逃げそうで心底気分はブルーサファイアである。

俺マサヒコ=マツモト住民ナンバー50444は灰色の空を呆然と眺め

雑誌のページ一枚だけを切り取り残りを公園のゴミ箱の中に放り投げた。


チンケな俺に付きまとう人生はやはりチンケなものだったことに今更気付いてみる。












西暦―――年


世界人口の内「女性」が減り始めたことに気付いたのは丁度現在から100年ほど昔のことである。

突如「女性」が「女」を出産しなくなり女性の人口は急激に減少。

年々減少していった「女性」人口はとうとう日本人口一億人に対し"1000人"となる。

それと同時に全世界各地で婦女暴行事件が多発、政府・警察が事態を重く見て

急遽「女性」を"保護対象"と認定。

特別に作られた施設に「女性」を保護、以降「女性」は施設にて保護されることが決定された。


以後約100年間、原因不明の「女性」人口減少は悪化することも無くしかし解決することも無く

相変わらず日本人口一億人に対し女性人口"1000人"は維持されたままである。




実験の結果「女性」人口が一人減ると一人出産されるという謎の現象が繰り返されていることが判明した。

現在遺伝子操作など科学的解決を目指し目下研究中、だが上記の方法でしか未だ「女」の出産は不可能とされている。

その為「女性」との"性交"は上流階級の人間"館主(カンシュ)"のみに「女性」の同意を条件に

「女性」が死亡した場合に許されている。




しかし問題となったのが男性の「性処理」である。

これに政府は以下の事を発表した。



―性処理用"ペット"の雇用の容認―



これもまた上流階級の人間"館主"にのみ認められ、今現在男性の就職先はここに集中している。

また、性処理用"ペット"は俗称"メイド"と呼ばれている。









―まあつまりは女がいないから金持ちのムラムラしている男にえっち用の男を飼うことが認められたってこと。






要約してしまえばそんなとんでもねーことなわけだ。

俺は明日からその「メイド」になるわけだトホホ。

























翌日。



「…うはぁでけぇ」



住所通りに今日から住み込みで働くことになる館を探しているわけだが、あっちを見れば館

そっちを見ても館、こっちを見たら…立派なお屋敷。

高級住宅街というよりは中世の街に迷い込んでしまったのではないかと心配してしまうくらい

見たことももちろん住んだこともないような巨大で立派な建物が軒並みになっている。

表札も豪華で「ヤマダ」だとか「ミムラ」だとかどこにでもありそうな名前がキレイというよりも

美しいといった方が正しそうな物に深く刻み込まれていた。

カマボコの板で表札を作っていた自分の家と比較すると自殺したくなりそうな豪華さだ。


後ろで土ぼこりを巻き上げながら―館はそろって山のふもとなど街から外れた所に集まっている―必死についてくる

トランクをぐいとひっぱり上げ次第に込み上げて来る緊張と吐き気を誤魔化した。



「えーと…オオタケ様…オオタケ…オオタケ…ああもういろいろありすぎてわかんねぇよ…」



一つ一つの館が大きすぎるせいか隣の家の表札をみるのも一苦労。

となるともう泣きたくなるくらいの地道作業なわけだ、何しろ昨日電話して教えられたのは

この館があるアバウトな住所と名前だけ。

雑誌の切り抜きも入れたら館の写真も入るのだが、庶民の俺にとってはもう全てが同じに見えてきて

それすら役に立っていない状態。



「ああもう…っ」















「もしもし、もしかして迷ってる?」



と、突然後ろから声が掛かって驚いて振り返ってみるとそこには一人の男が立っていた。

見た目20代前半といった感じの男。

こげ茶色のスーツ、ネクタイの代わりにスカーフを首に巻いてYシャツの中に入れるという

街ではあまり見かけない格好。

何故かその男が「館主」なのではないかと思った。

何でかと言えばただ単にサラリーマンが着る様な地味なスーツでなかった、それだけのことだが。

天然のかかったぱさついた髪はスーツに合わせたように―いやスーツを合わせたのだろうが―

鮮やかな茶に染められていて尚更彼が金持ちだということが感じられた。

相当の金持ちでなければこんなちゃらけた格好はしないから、普通は。


男は微かに口元に笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。

もしかしてこの人が雇い主ではないかと思い思わず体が強張ったが、そうでもないようだった。



「俺のとこのメイド…じゃないよな、そんな話聞いてないし。

 ドコにいく予定なんだ?」

「え…あ、オオタケさんの…」

「オオタケさん!そうか、運がいいなお前」


また男はにこりと笑んで―多少その馴れ馴れしさが気になった―俺のトランクを奪い取り

急に前へと早歩きで歩き出した。

まさか堂々とした窃盗犯野郎かと思ったらそういうわけでもないらしく、どうやら親切で

案内してくれる…のだと俺は信じている。



「オオタケさんはコレと決めた奴意外は手を出さないんだ。

 まあ普通にお世話しに行くとでも考えればいいだろうな」

「え、そんな方もいるんですか?」

「あの人は変わりもんなんだよ」


はは、と柔らかく笑い振り向かず俺の顔を見ないまま男はどんどんと前へ前へと進んでいく。

名前も知らない人物でおそらく相当の金持ちの目の前の男、しかしいつの間にか俺の緊張は解けていた。

もっと金持ちというのは嫌味ったらしいイメージで散々俺たちのような貧乏人のことを卑下するような

イメージがあったがそうでもないらしい。

ただこの目の前の人物がそれに当てはまらなかっただけかもしれないが。


何にしろ男がかなりのお人好しで人当たりのいい人物であることだけは、わかった。













ひたすら歩き続けて30分ほど。

ようやく着いたそこは館が集まっている地帯よりも更に離れた、森に囲まれた場所にあった。

それに加えて少し古びた一際大きな館の風貌がこの館の主が「変わり者」であることを示しているようだ。

俺が呆然としているとそれを察したのか男は苦笑いして「な」と言った。



「表札はな、そこの見えにくいところにあるけどちゃんと「オオタケ」って書いてあるだろ?

 後はチャイム押せば大勢居るメイドの誰かが来るよ。というわけで俺はこれまで、じゃ!」



爽やかに立ち去ろうとする男。

俺は館を見上げていて―とはいっても門から50メートルは離れているけど―ぽかんと開けっ放しだった

口を閉じて慌ててそれを引き止めた。

無言で腕を掴むと男は特に嫌そうな顔もせずだが不思議そうな顔をして俺のことを見つめた。

この男まさか素で帰ろうとしているのだろうか。



「い、いやあの!お礼が…今はその、金がないんで何もできないんですが

 せめてお名前だけでも!」

「名前?えー…いいよ、下手に覚えてると火傷するような気もするんだよなー…」

「ヤケド…?」

「あーいいよ。気にすんな」


男は眉を下げて笑って困ったように視線を泳がせ始めた。

俺が怪訝な顔をしてそれを見ているととうとう何かいい案が思いついたようで今度は

にこやかな顔をして、言った。



「俺は近くの館の…まだ館主じゃないけど…えー…好青年だ!

 ウエぴょんとでも覚えとけ。困ったことがあったら探し出して頼れ!じゃ!」



そう言って男―ウエぴょんは物凄いスピードで走り去っていった。

















「…結局なんだったんだ?ついつい敬語を使っていたが…」



そういえばと思い出してみると彼は自分よりも明らかに年下に見えたし、

見た目だけで決めつけて特に館主ではないようだし。

俺は始終不思議に思いながら門から館までの道を歩き始めた。

 
ちなみにすでにチャイムは鳴らしている、全てが古臭い館にしてはチャイムだけは立派なキカイのものが

取り付けられていて鳴らした途端「門を開けて館に来い」と命令されたのだ。

どうやらカメラが設置してあるらしく後は俺の格好を見て就職希望のメイド見習いということがわかったのだろう。

しばらく持つことのなかったトランクを持つとずいぶんと重く感じられた。

しかし何にしてもウエぴょんはどれだけお人よしなのだろう、近くならともかくこんな遠くまで

これを持ってあまつ案内までしてくれたのだから。

今度なんとしてでも探し出してお礼をしないと、とそんな事を考えながら足を進める。



館までの道には館には付き物の噴水やら花壇があったが全て時が止まったように、そしてそれが最初から

「無い」ように花壇には土だけ、噴水は水を止められている。

だが廃れているようには見えない。

決してそれらは汚らしいわけではなく、全てが整備された上で「何も」ない。

館もキレイにされている割には先ほども言ったように古臭くて妙な空気が漂っている。


ウエぴょんと一緒に居たときとは大違いの緊張した心。

体が強張り気を抜けば動かなくなってしまいそうになるような、そんな状況だ。





ようやく扉まで着いてその重苦しいドアをゆっくりと押し開けた。


重厚な音。

木が軋む音は家でも床踏んだときによく聞いているのだが同じ木でもこんなにも違うとは。

当たり前のことにいちいち驚きながら扉を最低限開けてからそこに背をつけ、そのままトランクを

両手で10センチほど持ち上げてカに歩きで何とか館の中に入る。


―埃臭い…


それが第一印象。



「大理石…」


埃の匂いが充満していたからてっきり映画で見るような埃だらけのぼろぼろの木の床かと

思ったら一歩踏み出せばそこには全身を映しだす美しい大理石の床。

埃一つ落ちていないそこは本当に鏡のように磨かれていて、履いてきた泥まみれのスニーカーで

足跡がつくのが誰もいないのにとても恥ずかしく感じ、心臓が飛び跳ねるほどそれが罪のようにも

感じられた。



「やべ…っ」










「オイコラ!!そこのアホ、何きったない靴で入っとるんじゃ!!」



「ヒッ」


と、突然どこからか怒鳴り声が聞こえてきてそれが館中に響きまるでやまびこのように

エコーして何度も耳に入ってくる。

勢いよく顔を上げて見上げると、そこには恐ろしくて見ることが出来なかった光景があって

視界一杯に広がるそれを俺はがくがくと震えながら呆然と見るしかなかった。




大理石の床は本当の意味で映画でみるような、ダンスホール程の広さに広がっており

目の前には到底家の階段とは思えないほど巨大な階段がある。

赤い絨毯が敷かれたそこにおそらく怒鳴った張本人であろう男が仁王立ちしていて、目を逸らそうとして見上げた天井には

見たことも無い立派な"シャンデリア"がキラキラと美しく輝いていた。

目が潰れると思うくらい輝くそれ、もう俺は呆然とする以外方法がなかったのだ。


しかし男はそれを許すはずも無く、怒りの形相を浮かべてこちらへと歩みを進めてくる。


男―メイド服を着た浅黒い肌のその男は口元にまるで西部劇の銀行強盗のように白い布を巻いていて

手には銃…というわけではなくハタキを持っていたのだが俺にはそれがとんでもない凶器のように見えた。




「お前な!来いとは言ったが入っていいなんて一言も言うとらんやろうが!」

「す、すみません…っ」

「あーったく…せっかくあのケンが真面目にキレイにしたっちゅうに…

 新人やろ?!初日は疲れとらせたろ思ってたけどあかんなこれじゃ」

「え、あの…」

「部屋に案内する、そしたらすぐに着替えて掃除!靴は脱げ、ええかわかったか!」

「は…っはい!!」



言われてすぐにスニーカーを脱ぐと男は納得したように頷き、顎で合図すると前をどんどんと歩き始めた。

それに遅れないよう小走りでその後を追った。

トランクで泥の後が付かないように歩くのはなんとも難しかったが重さを我慢してそれを持ち上げ

再び歩き出す。




「俺はナグラ。お前は」

「マサヒコ=マツモトです」

「そうか、マツモト。俺がここのメイドのメイド長やから何か質問があったら主に俺に聞け。

 ただ同じ質問やくだらない質問なんぞしたらしばくから覚悟しとけ」

「あ…はい…」


無表情の男―ナグラは階段を上り、二階に上がってホールを囲うように並んでいる扉の前で

また顎でそこを指すとそのままどこかへと立ち去ってしまった。


俺よりも年下のように見えたがもしかしたらだいぶ長い間メイドをやっているのかもしれない。

ずいぶんと若いメイド長の後姿を見送った後俺は裸足のまま泣きたい気持ちで扉を開けた。

あああんな恐ろしい奴―まるでヤーさんだあれじゃ―とこれから仕事しなければならないのか…と思うと

気はひたすら重い。






部屋の中はそれなりに広かったがいくつも置かれた二段ベッドがぎゅうぎゅうに押し込まれていて

とんでもなく狭く感じる。

文句を言う暇も無くそこに入ると幾つものの二段ベッドの内の一つに何か張り紙がしてあった。



『新人君ウェルカム!君の部屋はこの上です』



部屋…?


不審に思いながらその二段ベットに上ったところでああ部屋とはこのベッドのことを言うのだな、と気付かされた。

…となるとこのトランクはどうすればいいのだろうか?


部屋を見回すと部屋の隅に大きめなタンスが幾つか置かれていてその一つの一段だけが

空っぽのまま引き出されっぱなしになっているのを見つけた。

おそらくここに荷物を入れればいいのだろう…か?

 
とりあえず荷物を移し変えて、ベッドの上に置いてあったメイド服に着替えて早々に部屋を出た。

メイド服は多少ぶかぶかだったが着れないわけでもなかったので時折ずり落ちてくる

エプロンを直しつつ小走りで先ほどのホールへと戻った。













「遅い…っお前ほんまやる気あるんか、ええ?!荷物はあんな持ってくるしなぁ…!」

「そん、そんなわけでは!!荷物を入れるものがあれしかなかったんで、その…荷物自体はそんなに…」

「言い訳はいらん!ほら、モップ!…ったくなんでカズキ様がお帰りになる当日に限って…」



ぶつぶつと文句を呟きながらナグラは持っていたモップを俺に渡してそのまままた忙しなく立ち去っていった。


帰ってくる日?

首を傾げながら俺はモップを近くに用意されていたバケツに入れて恐る恐る掃除を始めた。




















「…なんか、イメージと違うな」



いい意味でも悪い意味でも、メイドの仕事というのはオレの予想していたものとはだいぶ違った。

メイドといえば性処理用ペットというのが正式名称なぐらいだからもっとこう、なんというかいやらしいというか

そんなものを想像していた。

イイ意味でいえばそんなにどろどろとしたものでもないらしい。

悪い意味でいえばつまりは性処理もしつつ家事をしなければいけないらしいこと。

今掃除させられていることがそれの実例だし、先ほどからナグラと同じような格好をして

箒やらオレと同じようなモップやらを持って走り回っているメイドや

いい香りが漂ってくる―シチューかなんかかな…―のも恐らくメイドが夕飯を作っているからだろうし。



「雑用もして性処理も…っていい奴隷じゃねぇか」



まあ"奴隷"というのはなんとなく覚悟はしていたけど。





「…まあこんな感じかなぁ…」

「おおすごいなぁ。ケンのごまかしおそうじとはちがうわぁ」




関西弁。




オレは慌てて口を閉じ身を強張らせた。

直立不動になってモップを持ったまま気をつけ。


 ふと後ろから聞こえてきた関西弁にオレはすっかり怯えてしまった。

まだ数時間しか経っていないのにあの人物がこれほどまでに恐ろしい存在になっていようとは…



「なに?そんなきんちょうせんでもええやないかぁ」

「え…えっとその終わりましたそう…」



振り返り際に「じ」と言いかけてしかしその人物を見た瞬間に固まってしまった、違う意味で。


後ろに居たのはナグラじゃなかった、思えば声も全然違う。

そこにいたのは俺よりもはるかに背の高いがたいのいい男でそれでもナグラやオレと同じようにメイド服をきているその男は

明るい茶髪のぱさついた髪を揺らしながらへらへらと締まりの無い顔でオレのことを見ている。

ふと見た首には他のメイドにもついていなかった黒いベルト製の首輪が巻かれていて

ぼろぼろのそれにオレの視線は奪われてしまった。


な、なんだこいつは…





「な…なんでしょう…」

「あーえっとな。ジュンちゃんがそうじはもうええからおゆうはんつくるの

 てつだってくれって、な、いって…」


そこまでいってそいつは息を吐く。

どうやらその、初対面の人間にこういうのはあれだが…どうにも舌足らずなその物言いと

妙に口をもごもごさせる様子からもしかしたらコイツがちょっと"遅れてる"のではないかと思った。


「あー…まあとにかく、その。手伝いにいけばいいんですよね?」

「そ、そう!…あ、あとなー…けいごやめてな。おれけいごにがてやから…」

「ああ…はぁ、でも」

「ええからー」


またへら、と笑って。





「おれ"レッド"いうねん。ほんまのなまえはわすれてしもた、おまえは…」

「あ、オレは…」














「ゴルゴ」






ふと、どこからか声が聞こえて。


「そうかぁ、ゴルゴな」

「い…いやいやいや!オレは…っ」

「でも―…がきめたらそのなまえでやらんとあかんから…」

「は?」


何故かそこだけごにょごにょと口ごもって、レッドが恥ずかしそうに下を俯いた。

恥ずかしそうだがどこか嬉しそうな顔。

俺の後ろに視線をちらちらと向けるレッドを不振に思いながら俺は後ろを振り向いた。





「んだよお前パンツなんか穿いてんじゃねぇよ、萎えるじゃんか」


初体験で確かにスースーするなぁ、なんて思っていたスカートが余計風通し良くなってて

恐る恐る後ろを振り返る。

するとそこにはオレのスカートをたくし上げてにやにやと口元を吊り上げていやらしく笑っている人物がいて。



オレと同じくらいの身長、少し太めの眉毛の下には半眼の濁った黒の瞳。

青がメインの鮮やかな色のアロハシャツを来たどこの南国からやってきたのかわからないその男。

掛けているメガネをもう片方の手で直しつつ俺のパンツをその瞳が…



「うわぁ!!」

「おっかわいい」



慌てて体を翻しその手からスカートを奪い取って思わず図体でか男―レッドの後ろに隠れる。

そんな反応を見せた俺を見て心底喜ぶこの変態男の姿はなんとも、いえない。

だがレッドはそれをなかったことのようにへらへらと笑いながら俺を置いてその変態男に近寄っていき

身長の差があるにも関わらず嬉しそうにその胸に抱きついた。

な、なんだ?


「おかえりなさぁい」

「おう、ただいま。レッドはベテランだから約束守ってるよなぁ」

「レッドはベテランやからー」

「なぁ」


そういうとレッドはカズキ様から離れて足元にあるスカートの裾を両手で持ち

ゆっくりと前をたくし上げた。

腹が見えるくらいたくし上げられたスカート、その中身をみて俺は驚愕するしか…ないだろうよ…




変態男がにやにやと見つめる先。

本来なら下着で隠されているはずであろうその、大事な部分が丸裸になって晒されていて

レッドの立派なモノがダイレクトに俺の視界に飛び込んできた。

しかも…あるべきものがないんですが、その。毛的なものが。

恥ずかしそうにしながらもいつものことのように―いや実際そうだろう―それをしっかりと見えるように

スカートを限界までたくし上げるレッド。

大理石にまでそれが映って俺は思わず視線を逸らしてしまった。

なんだかこう初めて他の人間の裸を見てドキドキした、というか、恥ずかしかったというか。

あまりにも大胆すぎだったから。



「よしよし、今日もたくさんえっちしてやるからな」

「ほんまぁ」


スカートを下ろして心底嬉しそうにまた変態男に抱きつくレッド。



―ん?えっち?




俺はその単語を聞いてしばらくし、はたと気付いた。


あれ?もしかしてこの変態男…いやこの方は














「お帰りなさいませ、カズキ様」





いつの間にか現れたナグラが深く礼をしてその方に―カズキ様にそう言った。





「おう、ただ今お帰りだ」




にやりと口端を吊り上げて笑いながらそう返したカズキ様。










俺のメイド生活がこの時からスタートした。












Next...?